米津玄師 “diorama” /久し振りに心震える作品に出会えたよ

 

キリンビバレッジが展開するブランドの“小岩井”でみかんジュースとか発売されてますが、岩手県の小岩井でみかんなんて栽培されてないだろうし、ブランドイメージに踊らされているようでイヤなんだというようなことを友人と話したことがあります。(まあそもそもブランドってそういうもんでしょうけど)

あと濃縮果汁を薄めて数字上は果汁100%っていう飲み物もいまいち納得できません。

ああいうのを真に受けて騙されたと怒る人はいないだろうし、ほとんどの人があまりそういうことに期待はしていないんだろうけど、それでもそういう事実とか理屈的なのを知ってしまうと冷めちゃいませんか?

支払った対価からするとそれなりのもんだし損はしていないんだけど、でも気付いてしまったときの残念さというか拍子抜けというか。

 

だいぶ書きたいことからそれてしまいましたが、何を書きたいのかというと、米津玄師のアルバム“diorama“は、そんなブランドイメージとか数字上の理屈なんてのとは違って、まさに原産国生産の果物のまじりっけなしな100%果汁だということです。

 

 ただ普通とちょっと違うのは、多くの人が想像していた以上にその生産国の土壌が豊かで、今回そこで発見されて収穫された新種の果実が激しく美味だったと。ざっくりいうと個人的にはそんなふうな印象です。

 

その音たちは、箱庭という閉鎖的な空気を醸し出しながらもあくまでポップ。

その言葉たちは、若さゆえにお腹いっぱいなくらいに詰め込みすぎた感はあるものの、センスに任せて放り投げられてどこまでも鋭くシャープ。

 

バンドとかセッションとか、そういう他者の存在を前提にして生み出される横軸の“広がり”的な魅力とは違うんですよね。それとは正反対の、米津玄師という個人一人を箱庭的な制作環境でストイックに搾り切った、縦軸の“深み”的な魅力が掛け値なしに果汁100%なんです。

でも若さ特有の焦燥感ゴリ押しなわけじゃないんです。もうそこは米津ワールドとでも呼ぶしかないかもしれませんが、楽曲たちが描く世界がまさにおとぎ話のようで、いい意味でグルグルと箱庭の中を無重力にループさせられているような、そんな心地よさが同居しています。

わかりづらくてスミマセン。このCDの魅力をぜんぜん伝えきれない自分の表現能力についてただただ懺悔。。。

 

それにしても今のところ残念なのが、ご本人がライブにあまり乗り気でないようなところ。

2曲目の“ゴーゴー幽霊船”、3曲目の“駄菓子屋商売”、これってライブ映えするとしか思えないです、断言しちゃいます。腕を振り上げる観衆が容易に想像できますから。こんな好楽曲をアルバムで並べて聴かせておいて、ライブには興味がないとかイケズぶりにも程があるってもんです。

 

あと7曲目の“vivi”だけはどうしても触れておきたいです。もうこの曲は自分の中でここ数年で最高のラブソングです!

年齢的にも環境的にもラブソングに反応する針の振れ幅がせまくなっているはずなのですが、なんか久し振りにメーターが振り切れる感がありました。普遍的なわかりやすい言葉で書かれてるものではないし、「大震災の翌年にナマズのイラストが描かれたジャケットのCDに収録されて発表された曲だから、単純な愛の唄であるはずはないだろう」っていう解釈もあると思いますが、自分にとってはなんか合理的な解釈とかそういう次元を超えて、もう直感的に壮大なラブソングです。曲の終盤に向けての高まりと歌詞の刺さり具合が完全にラブソングです。

ニコ動のMVでの出会いを含めて、この曲にこのタイミングで出会えたことをすごく運命的に感じています。米津玄師さん、本当にありがとうございます!

これからどのような活動をしてくれるのか、すごく楽しみではありますが、まずはしばらくの間、この“diorama”という作品を存分に味わいたいと思います。